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労働災害(労災)コラム

会社の違法な労災隠しに遭ったら、労働者はどう対処すべき?

更新:2025年08月05日
公開:2020年09月18日
  • 労災隠し
会社の違法な労災隠しに遭ったら、労働者はどう対処すべき?

業務時間中や通勤途上でケガをしたり、業務が原因で病気になったりした場合、労働災害(労災)として申請すれば労災保険から治療費をはじめとするさまざまな給付が受けられます。

しかし、明らかにケガや病気が業務によるものであるにもかかわらず、会社が労災として認めず、労災申請をしてもらえない場合があります。そのようなとき、労働者として打てる手は何かあるのでしょうか。本記事では、労災隠しが違法行為であり犯罪であることや、労災隠しをされたときの対処法について解説します。

▼労災によりケガや病気になったものの、会社から労災申請をしてもらえない理由は、会社が安全配慮に欠ける行為をしていたなど、不都合を隠すためかもしれません。会社が実際に安全配慮義務を怠っていた場合、損害賠償請求できる可能性があります。こちらの動画では、労災チームマネージャーの外口孝久弁護士が、労災による損害賠償請求でいくらもらえるのか、わかりやすく解説しています。ぜひ動画もご覧ください。

1、労災隠しは違法

業務に起因するケガ・病気を業務災害、通勤に起因するケガ・病気を通勤災害といい、この2つをあわせて「労働災害」(以下「労災」)と呼びます。労災が起きたらそれを隠そうとする事業者も少なくありませんが、労災隠しは刑事処分を受けうる犯罪行為です。

  1. (1)企業には労災事故の報告義務がある

    たとえば、建設工事現場で高いところから落下して足を骨折した、出勤途中に交通事故にあった、などが労災にあたります。このような労災が発生すると、企業には労災事故の報告書である「労働者死傷病報告書」を労働基準監督署長に提出する義務が生じます。しかし、中にはこの報告書をわざと作らなかったり、虚偽の報告書を作成したりする企業があるのです。

    労働者死傷病報告の提出義務に違反したときには刑事罰が科されます。
    具体的には、労災隠しの刑事罰として、50万円以下の罰金と規定されています。なお、労災隠しの場合、法人・事業主ともに同様の刑事罰を受ける可能性があります(労働安全衛生法第120条、122条)。

  2. (2)心当たりありませんか? よくある労災隠しをチェック

    以下のような事情に少しでも心当たりがある方は、労災隠しを受けている可能性があります。すぐに弁護士に相談するようにしましょう。

    ①会社の労災保険料が上がるから労災保険を使わないでほしいと言われた
    従業員が1人でもいる事務所は、労災保険を支払わなければなりません。さらに一定の規模以上の事務所は、労災事故の発生件数が多いほど、事務所が支払う保険料や保険料率が上がります。そのため、事務所によっては、保険料を増やさないために、労災事故が発生してもその事実を隠そうとすることがあります。このような行為は労災隠しにあたります。

    ②労災保険ではなく健康保険を使用してほしいと言われた
    労災被害に遭った際、労災保険ではなく、健康保険の使用をすすめてくる会社もあります。
    しかし、仕事中や通勤途中のケガは、労災保険の対象になるため、健康保険を利用することはできません。健康保険が使えるからという理由で労災保険の利用を拒否された場合には、労災隠しを受けている可能性が高いでしょう。

    ③パートやアルバイトには労災保険は適用されないと言われた
    パートやアルバイトには労災保険は適用されないという理由で、労災保険の利用を拒否する会社もあるかもしれません。
    しかし、パートなどの雇用形態とは関係なく、労働者であれば労災保険の適用対象となります。正社員でないことを理由に、会社から労災保険の適用を拒否された場合には、労災隠しを受けている可能性が高いでしょう。

    ④通勤中の事故だから労災保険は使えないと言われた
    通勤中の事故は交通事故にあたり、労災保険ではなく、自賠責保険や任意保険を使うよう指示する会社もあるかもしれません。
    しかし、通勤途中の事故については、「通勤災害」として労災保険の適用対象となります。そのため、通勤中の事故を理由に労災保険の適用を拒否された場合には、労災隠しを受けている可能性が高いでしょう。

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2、労災隠しをされると被災労働者にデメリットがある

労災隠しをされると、被災労働者にとって以下のようなデメリットがあります。

  1. (1)医療費がかかる

    労災保険がおりると、治療費について療養補償給付(療養給付)が受けられますので、原則として治療費の自己負担はなくなります。しかし、労災申請をしてもらえなければ、ケガ・病気の治療にその給付が使えません。そのため、その労働者が加入している健康保険で医療費をまかなうことになります。

    そうなると、健康保険には自己負担がありますので、医療費を1~3割自己負担しなければならなくなるのです。

  2. (2)生活費の補償が受けられない

    労災保険から支給されるのは療養補償給付(療養給付)だけではありません。仕事ができなくなったときに受けられる休業補償給付(休業給付)や傷病補償年金(傷病年金)、障害を負ったときに受けられる障害補償給付(障害給付)などの補償があります。

    労災隠しをされるとこれらの給付も受けられず、生活に困る方もでてくるでしょう。

  3. (3)働けない期間が長引くと解雇されるおそれがある

    労働基準法には、業務上のケガ・病気の療養のために休業する期間とその後30日間は解雇してはならないことが定められています。

    しかし、労災認定を受けられなければ、仕事を休んでも労災による休業と扱われず、不当にも解雇されてしまう可能性もゼロではありません。

  4. (4)業務改善がなされない

    労災隠しをされるということは、社内で労災事故が起こったのに、なかったことにされてしまうということです。そうすると、労災事故が起こった事実や原因が共有されず、再発防止のための業務改善がなされません。その結果、しばらくしたのちにまた同じような事故が発生してしまうこともありうるでしょう。

    再発防止のためにも、労災事故は隠さずきちんと労働基準監督署に報告するとともに社内でも共有すべきなのです。

3、労災認定されると受けられる補償内容

労災認定を受けることができると労災保険からさまざまな補償をしてもらうことができます。以下では、労災認定をされた場合に受けられる補償内容について説明します。

  1. (1)療養(補償)給付

    療養(補償)給付とは、労災による傷病の療養にかかる費用の給付のことです。
    労災保険指定医療機関であれば、窓口での自己負担なく治療を受けることができます。他方、労災保険指定医療機関以外の医療機関では、一旦全額を自己負担で支払ったのち、労災保険に申請することで立替えた分の支払いを受けることができます。

  2. (2)障害(補償)給付

    障害(補償)給付とは、労災による傷病が治癒したのち、身体に一定の障害が残った場合に支給される補償です。
    障害給付には、障害の程度に応じて「障害(補償)年金」と「障害(補償)一時金」の2種類があります。障害年金は、障害等級1級~7級の認定を受けると支給され、障害一時金は、障害等級8級~14級の認定を受けると支給されます。

  3. (3)休業(補償)給付

    休業(補償)給付とは、労災により労働者が休業した場合、働くことができなかった期間の賃金を補填するために支給される補償です。
    休業給付は、休業4日目から1日あたり給付基礎日額の60%相当が支給されます。また、休業特別支給金として給付基礎日額の20%相当が支給されるため、合計で80%の補償を受けることが可能です。

  4. (4)傷病(補償)年金

    傷病(補償)年金とは、労災による傷病が療養開始後1年6か月を経過しても治癒せず、傷病による障害の程度が傷病等級に該当する場合に支給される補償です。
    傷病年金は、傷病が治癒するまで支払われますが、症状固定と診断されると、障害給付に切り替わります。

4、労災隠しされたときの対処法は?

上司や事業主が業務上のケガや病気をと認めようとせず、労災隠しされた場合は、自分で対処するしかありません。労災申請や労災保険で治療をする手続きは、自分でも行うことができます。

  1. (1)労働基準監督署に相談・告発する

    会社に労災申請をしてもらえない場合は、勤務先を所轄する労働基準監督署に相談しましょう。労働基準監督署は、労災隠しに対しては逮捕または書類送検の上罰金刑を科すなど、非常に厳しい態度で臨んでいます。

    労災申請は自分でもできるので、労働基準監督署に相談したのち、自分で申請手続きをしましょう。申請用紙に会社の押印欄がありますが、事情を話せば押印がなくても受理してもらえます。

    労災申請手続きに関する よくある質問
  2. (2)労災指定病院を受診する

    業務が原因のケガ・病気をしたときは、なるべく早く労災病院や労災指定の医療機関を受診するようにしましょう。
    「会社から労災として扱わないと言われたから、病院にも行かなかった」という方は多いですが、そうなると、症状が耐えがたいほどに悪化したときに初めて病院に行ったところで、時間が経過してしまっていることから労災と症状との因果関係が不明ということになってしまい、労災によるケガであることが証明できないという事態にもなりかねません。

    労災病院や労災指定の医療機関が近くにないときは、それ以外の医療機関を受診してもかまいません。労災指定の医療機関以外の病院では、いったん窓口で一部負担金を支払わなければなりませんが、あとで請求すればそのお金が返ってきます。

  3. (3)健康保険から労災保険へ切り替える

    労災であるにもかかわらず、健康保険を使って病院を受診していた場合は、途中からでも健康保険から労災保険に切り替えができるか、病院に相談してみましょう。

    ●切り替えできる場合
    切り替えできる場合は、今まで受診したときに窓口で支払った金額(自己負担金)が返金されます。切り替えのためには、労災保険の所定の様式に記入のうえ、病院に提出する手続きが必要です。

    ●切り替えできない場合
    切り替えできない場合は、まず加入している健康保険組合(保険者)などに治療中のケガ・病気が労災であることを申し出ましょう。健康保険組合などから医療費の返還通知書が届いたら、指定された金額を支払います。

    その後、所定の様式に記入のうえ、返還額の領収書と今まで病院の窓口で支払った金額の領収書を添えて労働基準監督署に請求してください。

    なお、一時的に医療費を全額負担することが難しい場合であっても、労災認定を受けていれば、自己負担せずに労災保険を請求できることがありますので、とにかく一度労働基準監督署に相談してみるとよいでしょう。

    労災申請手続きに関する よくある質問

5、損害賠償請求も可能? 弁護士に相談してみよう

会社側が労災の発生を隠そうとするということは、会社側に何か不都合なことがあるのかもしれません。その場合、損害賠償請求ができる可能性があります。

  1. (1)会社に損害賠償請求できることも

    どの会社にも、労働者を生命や身体の危険から守るために安全に配慮し、安心して仕事ができる環境を整える義務があります(労働契約法5条)。前者を「安全配慮義務」、後者を「職場環境配慮義務」と呼んだりします。労災事故を起こした会社は、安全配慮義務違反や職場環境配慮義務違反に問われうるでしょう。

    また、雇用主や事業監督者は、安全配慮義務と同時に、使用者としての責任(使用者責任)も負います。たとえば、クレーン作業をしていた作業員のミスでケガをした場合、作業員を雇用していた会社に対して使用者責任を問うことが可能です。

    したがって、被災労働者は、会社側に対して、安全配慮義務または職場環境配慮違反、使用者責任を理由に損害賠償請求ができる可能性があるのです。

  2. (2)損害賠償請求時の注意点

    会社に対して労災を理由に損害賠償請求をする際には、以下の点に注意しましょう。

    ①労災保険で補填された範囲の二重取りはできない
    労災による傷病については、労災保険からの補償だけでなく、一定の条件を満たせば会社に対して損害賠償請求をすることも可能です。労災保険からの補償には、慰謝料が含まれていないため、障害が残った場合の補償も十分なものとはいえません。そのため、労災保険から補償を受けていたとしても、不足する部分については、会社へ損害賠償請求を検討しましょう。

    ただし、労災保険からすでに補填されている損害については、会社に対して請求することはできません。なぜなら、これを認めると被災労働者によるお金の二重取りが生じ、労災をきっかけに不当な利益を得てしまうからです。

    ②会社側の責任を立証する必要がある
    会社に対して損害賠償請求をするには、会社の安全配慮義務違反または不法行為責任を証拠によって立証していかなければなりません。
    証拠がなければ、適切な賠償を受けられないため、まずは会社側の責任を立証するための証拠を集めるようにしてください。ただし、どのような証拠が必要になるかは、労災事故の内容によって変わります。適切な証拠を集めるためには、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

    ③損害賠償請求には時効がある
    労災による慰謝料請求には時効があるため、検討されている方は早めに行動することが大切です具体的な時効期間は、労災事故の発生時期に応じて以下のように定められています。

    • 令和2年4月1日以降に発生した労災事故……原則として5年
    • 令和2年3月31日以前に発生した労災事故……不法行為に基づく請求なら3年、安全配慮義務違反に基づく請求なら10年

  3. (3)損害賠償請求を検討するなら弁護士へ相談

    会社への損害賠償請求を検討するなら、弁護士に相談したほうがよいでしょう。会社を相手に個人で交渉しても、請求を認めてもらえない可能性が高いです。

    弁護士に相談・依頼することで、適切な賠償金額がわかりますし、交渉だけでなく、訴訟になった場合も代理人として取り組んでもらうことができます。

6、まとめ

業務によってケガや病気をして会社を休むことになったら、「解雇されるのではないか」と先行きがとても不安になるものです。しかし、労災保険からの給付に加えて会社からの損害賠償を受けることができれば、その不安が少しは解消されることでしょう。

労災隠しは犯罪です。「会社に頼んでも労災申請をしてもらえなくて困っている」「会社に対して損害賠償も請求したい」などのお悩みがありましたら、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。

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この記事の監修者
外口 孝久
外口 孝久
プロフィール
外口 孝久
プロフィール
ベリーベスト法律事務所
パートナー弁護士
所属 : 第一東京弁護士会
弁護士会登録番号 : 49321
この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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