仕事中に怪我や病気になり、「労働災害」として認定された場合には、労災保険から補償を受けることができます。
労働災害には、「業務災害」と「通勤災害」の二種類がありますが、両者の違いについて正確に理解している方は少ないかもしれません。業務災害と通勤災害では、労災保険からの給付内容にほとんど違いがありませんが、法律上の観点からみると異なる点がいくつかあります。
今回は、労働災害のうち「業務災害」について、その認定基準や手続きをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、労災における「業務災害」とは?
労災における「業務災害」とはどのようなものをいうのでしょうか。
業務災害の定義、通勤災害との違いについて見ていきましょう。
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(1)労働災害とは
労働災害とは、業務中や通勤中に発生した病気や怪我のことをいいます。このうち業務中の病気や怪我のことを「業務災害」、通勤中の病気や怪我のことを「通勤災害」といいます。
業務災害と通勤災害は、「労災保険の適用がある労働災害である」という点では共通するものです。 -
(2)業務災害と通勤災害の違い
業務災害と通勤災害のどちらであっても労災保険から支給される補償内容にはほとんど変わりありません。しかし、事業主の責任や負担義務など法律上の観点からは、以下のような差異があります。
① 労災保険給付の名称の違い
業務災害と通勤災害とでは、労災保険給付の名称が異なります。
たとえば、治療費に関する給付については、業務災害の場合は、「療養補償給付」であるのに対して、通勤災害の場合は、「療養給付」であり、休業に関する給付については、業務災害の場合は、「休業補償給付」であるのに対して、通勤災害の場合は、「休業給付」であり、「補償」という名称が付くかどうかという違いがあります。それに伴い、労災保険を申請する用紙の様式も異なっています。
ただし、名称や用紙の様式が違っていても、給付内容にはほとんど違いはありません。
② 療養(補償)給付の負担金
業務災害の場合には、療養補償給付を受けるにあたって労働者の自己負担金はありません。他方、通勤災害の場合には、原則として200円が一部負担金として徴収されることになります(労働者災害補償保険法31条2項)。この一部負担金は、休業給付の支給の際に調整されますので、病院の窓口で請求されることはありません。
③ 待機期間の休業補償
労災保険の休業(補償)給付については、休業4日目から支給されるため、それまでの期間は待機期間として労災保険の対象外となります。
しかし、業務災害の場合には、使用者に対し待機期間中に平均賃金の60%以上の休業補償をすることが義務付けられています(労働基準法76条)。これに対して、通勤災害の場合には、使用者の支配下で生じた事故ではないため、使用者はこのような待機期間中の休業補償の支払い義務を負いません。
④ 解雇制限
業務災害の場合には、労働者が休業することになったとしても法律上解雇をすることができません(労働基準法19条1項)。これに対して、通勤災害の場合には、このような解雇の制限はありません。
2、業務災害の認定基準
業務災害の認定を受けるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」という二つの要件を満たす必要があります。
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(1)業務遂行性
労災保険が適用される事業に労働者として雇用され働いていることが原因となって生じた災害に対して支払われるものが労災保険です。したがって、労働者と使用者との間に労働契約関係があることが必要です。
業務上の負傷についての業務遂行性は、以下の三つの類型に分けて考えられています。① 事業主の支配・管理下で、業務に従事している場合
業務時間中や残業中に、事業所内で勤務している場合が該当します。
② 事業主の支配・管理下で、業務には従事していない場合
休憩時間や就業時間前後など、事業所内にいるものの、業務に従事していない場合に該当します。
③ 事業主の支配下ではあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
出張先や社用の外出先など、事業所外で業務に従事している場合に該当します。 -
(2)業務起因性
業務災害の場合、「業務上」労働者が負傷、疾病、障害または死亡したことが必要になります。
業務上とは、「業務が原因となった」ということを指し、業務と負傷・疾病などの間に一定の因果関係があることが必要になります。
業務遂行性の三つの分類を前提として、業務起因性が認められるか否かは、以下のように判断されます。① 事業主の支配・管理下で、業務に従事している場合
業務中の行為や事業所の設備の管理状況が要因となり労災事故が発生したと考えられ、特別な事情がない限り、業務起因性の要件を満たします。
ただし、労働者が個人的な恨みなどによって第三者から暴行を受けて怪我をしたようなケースでは、業務起因性は否定されます。
② 事業主の支配・管理下で、業務には従事していない場合
私的な行為によって生じた災害については業務起因性が否定されますが、事業所の施設や設備の管理状況の不備が原因であるときには、業務起因性の要件を満たします。
なお、用便などの生理行為については、業務に付随する行為として扱われ、>①に準じて業務起因性が判断されます。
③ 事業主の支配下ではあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
管理下にはありませんが、事業主の命令を受けて仕事をしていることには変わりません。業務災害について特段否定する事情がないときには、業務起因性の要件を満たします。
3、業務災害に遭った際の手続き
業務災害に遭ったときには、まずは労災保険の申請手続きを行います。
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(1)労災保険の申請手続きの流れ
労働災害が起きたときに労災保険を請求する流れは、次のとおりです。
① 会社に労働災害が起きたことを報告
会社に対して労働災害の発生を報告し、まずは療養補償給付を受けるため、以下の書類に会社の証明をもらいます。- 療養補償給付……療養補償給付たる療養の費用請求書
その後、労災によって被った病気や怪我の治療のために病院を受診します。その際は、労働災害保険指定医療機関で治療を受けることで、被災労働者が治療費を立て替える必要がなくなりますので、治療を受けるときには、労働災害保険指定医療機関を利用するとよいでしょう。
② 労働基準監督署に必要書類を提出
その他の労災保険給付を受けるためには、労働基準監督署に以下の必要書類を提出しなければなりません。給付内容によって書類が異なっていますので、注意しましょう。- 休業補償給付……休業補償給付支給請求書
- 障害補償給付……障害補償給付支給請求書
- 遺族補償給付……遺族補償年金支給請求書、遺族補償一時金支給請求書
- 葬祭料請求……葬祭料請求書
- 傷病補償年金……傷病の状態等に関する届け
- 介護補償給付……介護補償給付支給請求書
③ 労働基準監督署の調査
労災給付を受けるためには、労働基準監督署による調査と、労働基準監督署による労災認定を受ける必要があります。
労働基準監督署では、被災した従業員や会社に対する聞き取り調査、受診した医療機関に対する照会などの調査を行います。
④ 保険金の給付
提出された書類の内容や調査の結果を踏まえ、労働基準監督署から労働災害である旨の認定を受けた後に、保険金が給付されることになります。 -
(2)労災保険からの給付内容
① 療養補償給付
療養補償給付とは、労働者が労働災害により傷病を負ったときに、病院で自己負担なく治療を受けられる制度です。
療養補償給付には、治療費、入院費用、看護料など通常療養のために必要なものはすべて含まれます。
② 休業補償給付
労働災害に遭い、療養のため休業したときには、休業4日目から休業1日につき給付基礎日額の60%相当額の支給を受けることができます。このほかに給付基礎日額の20%が特別支給金として支給されますので、休業期間中であっても合計80%の収入が補償されます。
なお、給付基礎日額とは、原則として、労働災害が発生した日以前の3か月の賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額となります。
③ 障害補償給付
障害補償給付とは、「障害補償年金」と「障害補償一時金」からなる給付金です。
障害補償給付は、労働災害による傷病が治癒した後、後遺症が生じた場合に障害等級に応じて、年金または一時金の支給を受けられる制度です。
後遺障害等級が第1~7級のときは年金の支給、第8~14級のときは一時金が支給されます。
④ 遺族補償給付
遺族補償給付は、「遺族補償年金」と「遺族補償一時金」からなる給付金です。
労働災害によって労働者が亡くなったときには、死亡当時に労働者の収入で生計を維持していた遺族に対し、遺族補償年金が支給されます。
遺族補償年金の対象となる遺族がいないときには、一定の遺族に遺族補償一時金が支給されます。
⑤ 傷病補償年金
労働災害により傷病を負い、療養開始後1年6か月を経過しても治癒しないときは、傷病等級に応じて、傷病補償年金が支給されます。
休業補償給付を受けている方が、1年6か月を経過した時点で、傷病等級第1級から3級に該当するときは、休業補償給付から傷病補償年金に切り替わります。傷病等級の認定がないときには、引き続き休業補償給付が支給されます。
⑥ 介護補償給付
傷病補償年金または障害補償年金を受給し、かつ、現に介護を受けている場合には、介護補償給付が支給されます。介護補償給付は障害の状態として、「常時介護」または「随時介護」の状態にあることが要件とされています。
4、労災を弁護士に相談すべき理由
労災事故の被害を受けたときには、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)適切な賠償額を獲得できる
労災事故に遭ったときには、労災保険によって一定の補償を受けることができます。
しかし、労災保険からの補償は、国からの最低限度の補償であるため、労働者が被った損害のすべてを補償するものではありません。
事業主には、労働者の生命や身体の安全を確保するという安全配慮義務が課されています。そのため、労災事故に関して事業主の安全配慮義務違反が認められるときには、労災保険からの不足分ついては、事業主に対して「損害賠償請求」をすることが可能です。
弁護士への依頼により、会社の安全配慮義務違反を詳細に調査、検証したうえで、請求可能な損害額を適切に算定することができます。 -
(2)会社との交渉を一任できる
労災被害に遭った労働者自身が会社と損害賠償に関する交渉を行うということは、肉体的にも精神的にも負担が大きいといえます。
さらには雇用主が比較的強い立場にありますので、労働者個人の主張ではまともに取り合ってくれない場合もあります。
弁護士が労働者の代理人となることで、交渉を有利に進めることができる可能性が高くなります。また、交渉のすべてを任せることで、労働者の負担も相当軽減するでしょう。 -
(3)適正な後遺障害等級の認定を受けることができる
労災で障害が残ってしまったときには、労働基準監督署による後遺障害等級認定を受けることになります。
後遺障害等級は、その障害の程度などに応じて第1級から14級まで分けられており、認定された等級に応じて補償額が異なってきます。
後遺障害等級認定は、医師が作成する診断書や検査方法などによって左右されることもあり、診断書や検査に不足があれば、本来該当する等級よりも低い等級となってしまうことがあります。
そのような事態を回避するためにも、適正な後遺障害等級認定にあたっては弁護士にサポートを受けることが必要になります。
5、まとめ
業務災害に遭ったときには、労災保険の申請手続きを行い、労災保険から一定の補償を受けることになります。しかし、労災保険からの補償は、十分な補償とはいえないため、最終的には、会社の責任を追及していく選択肢も視野に入れましょう。
会社に対する損害賠償請求を検討する際には、弁護士のサポートが不可欠となりますので、対応実績が豊富なベリーベスト法律事務所までご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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